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畑のこと

北海道は、冬の寒さが厳しく春の訪れも遅い。

北海道南西部の積丹半島の根元に位置する余市町も、冬は雪に閉ざされ、5月はじめに桜が咲き春を迎える。

 

しかし、余市湾に面したこの町は、日本海を北上する対馬暖流の影響により、北海道のなかでは温暖な地域で、昼夜の寒暖差が果実に甘みと酸をのせる。

雨が少なく梅雨もない。

1年を通して湿度は低く、からっとしている。

 

畑の横にたたずむ昭和2年築の納屋には、林檎箱などが多く残され、土壁には正の字がびっしりと書かれており、古くから果樹栽培が盛んだったことが分かる。

就農時には納屋の補強工事を行い、今もなお農機具等を守り続けている。

余市湾の海岸線から約3.5kmの場所にある畑。

登町のモンガク線沿い、標高70m前後、傾斜4~10度の南西向きの丘陵地。火山岩*の母岩の上に風化した礫、砂、粘土などが混ざり合い、腐植に富んだ黒ボク土が表層を占める。

 * 北海道農業試験場土性調査報告には、安山岩や集塊岩と記されている。

土壌には母岩礫が多く含まれており、石が多いことで水捌けは良さそうだが、植栽時は困難を極める。

近隣の先輩農家さんも、畑の開墾時は小学校から帰ると毎日石を拾っていたと話すほど。

 

不思議なことに、拾った石の大半は雨に打たれると砕けてしまい、1年ほどで粉々になってしまう。一方、海や川にある堅い丸石も散見され、そのような石は園外に運び出す。

石だらけの畑は、30年ほど前までは、林檎やナイアガラなどが栽培されており、そのナイアガラを受け入れていた某ワイナリーの栽培責任者が数十年ぶりにこの畑にやってきて、次のように話された。

「余市、仁木を一望できるこの畑は、余市で1、2を争う絶景ポイントで、昔はよく見物に来ていた。そして、夕陽が当たり続け日当たりが良いことから、契約農家のなかで、最も早くに葡萄が熟し、出荷量も常にトップクラスだった。ここに植えられた葡萄がどのようなワインになるか楽しみだ。」

 

そんな畑も、この30年ほどは森と化して耕作放棄地となっていた。

しかし、私がこの地に出会ったとき、夕陽に照らされ風が通り抜けるのを肌で感じ、ここかもしれないと運命的なものを感じた。

 

2018年、この地を譲り受け、開墾し、再び葡萄畑として蘇った。

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